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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)76号 決定

抗告人 株式会社藤代造船所

右代表者代表取締役 藤代由太郎

主文

本件執行抗告を棄却する。

理由

抗告人は、「原裁判を取り消す。本件債権差押え及び転付命令の申立てを却下する。」との裁判を求めるものであり、その理由の要旨は、「抗告人は、抗告人を申立人(債務者)とする東京地方裁判所昭和五八年(モ)第七〇八七号和議開始前の保全処分申立事件につき、同年五月二七日、東京地方裁判所から和議開始前の保全処分として、『申立人(債務者)は、あらかじめ同裁判所の許可を受けた場合を除き、同月二五日以前の原因に基づいて生じた一切の金銭債務(租税その他国税徴収法の例により徴収される債務、従業員との雇傭関係によって生じた債務及び電気・ガス・水道・電話・通信の各料金を除く)の弁済及び担保提供をしてはならない』旨の決定を受けているところ、債権者が本件差押え及び転付命令の申立ての原因(請求債権)として主張する抗告人に対する債権は、抗告人が昭和五八年五月二五日以前に振り出し、同日までの間に満期の到来した約束手形一通の手形債権であり、抗告人にとっては右決定により弁済等を禁じられている債務に該当するから、原裁判は違法である。」というにある。

しかしながら、抗告人が主張する和議開始前における弁済等禁止の保全処分は、債務者が一部の債権者に優先的に弁済したりして和議成立の可能性を阻害することを防止するため、債務者に対し所定の不作為を命じるにすぎないものであって、債権者に対し取立を禁じるものではないから、債権者による強制執行を禁止し、これを阻止する効力は有しないものといわなければならない。したがって、抗告人に対する和議開始前の弁済等禁止の右保全処分が存在することを理由に本件差押命令及び転付命令を違法とする抗告人の主張は採用することができない。

よって、本件執行抗告は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 奥平守男 尾方滋)

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